薪の歴史

薪は、古代より私たちの生活に深く根付いてきた燃料です。その用途は、暖を取る、料理をする、燻す、灯りをともすといった日常的なものから、火を用いた儀式や文化的な場面に至るまで、多岐にわたります。

特に日本では、囲炉裏や薪能(たきぎのう)といった文化的な象徴としても重要な役割を果たしてきました。
一時期、エネルギー革命の中でその需要が低下しましたが、現在では再び注目を集めています。
薪は、再生可能で環境に優しい燃料であり、炭素中立という点で現代の環境問題に対する解決策の一つとされています。

また、アウトドア活動や薪ストーブの普及により、その魅力が再発見されています。
薪の暖かな光とともに、私たちの未来にも優しいエネルギーとして活用され続けることでしょう。

薪の利用

昭和の頃、町の銭湯や焼き芋屋さんでは薪が欠かせない存在でした。銭湯では薪をくべてお湯を沸かし、寒い冬の路地では焼き芋屋の軽トラックから漂う薪の香りが季節を感じさせました。

しかし、平成に入る頃から化石燃料が主流となり、薪の利用は姿を消していきました。その便利さの裏で、薪の火が持つ独特のぬくもりや自然の循環は忘れられてしまったのです。そんな中、1980年代のイタメシブームをきっかけに、薪窯で焼き上げた本格的なナポリピッツァが注目を集めました。


その後も、薪ストーブの復活や、コロナ禍でのアウトドア人気による焚火需要の増加など、薪は徐々に再評価されるようになりました。
令和の現在では、街中でも薪を目にする機会が増え、私たちの生活の中に再びその存在感を取り戻しています。

薪が出来るまで

私たちが日常で目にする薪。その多くは、山に自生している木を伐採し、適切なサイズに加工したものです。
映画やドラマの中で見るように、斧で割るシーンはどこか牧歌的な印象を与えますが、実際の薪生産には大変な時間と労力が必要です。
特に、山頂近くでの伐採作業は過酷そのものです。


険しい地形の中で行われる伐採作業は、常に危険と隣り合わせです。斜面での作業や重機の扱い、伐採した木の運搬など、どれも命の危険を伴う大仕事。
さらに、伐採後には木を適切なサイズに加工し、数ヶ月から1年の乾燥を経て、燃料としての準備を整えるという長い工程が待っています。特に、乾燥は薪の品質を高めるために重要な工程です。伐採したばかりの木材は水分を多量に含んでおり、そのままでは燃焼効率が悪く、不快なにおいや煙が発生するため燃料として使えません。長い期間をかけてゆっくりと乾燥させ、最適な水分量にすることで、火力・香りがよく煙が少ない、質の良い薪になるのです。


今回、そんな薪生産の現場を実際に取材する機会をいただきました。
東京近郊に拠点を置く薪の生産者の方々は、自然と向き合いながら日々作業を続けています。
その一部始終を目の当たりにし、薪がただの燃料ではなく、職人たちの知恵と技術、そして情熱の結晶であることを実感しました。

薪の伐採~出荷されるまで

今回取材させて頂いた薪生産拠点

ここも東京都ですがかなり奥深い場所を走り伐採現場へ向かいます。

ここから先は作業道路と呼ばれる伐採業者さんが作った道路を走ります。

約800mの山頂まで約30分程かけて注意しながら登っていきます。

特に雨が降ったあとは慎重に登っていきます。

山頂に到着しました。

車が停車した場所は左右どちらも崖となっており山と山の稜線と言われる場所です。

山頂より下の丁度紅葉している場所あたりから下に向かいながら伐採して行きます。

視界が開けた場所は都心を望める場所です。

伐採が進んだエリア

伐採後はこのように新たな芽が息吹き20~30年後にまた伐採され何度も循環 されます。

伐採後トラックで生産所に運び野積みされた状態

アメリカ製等外国製の薪割機は耐久性も高くこの機械で 原木を規格の長さに併せ裁断して行きます。

長さ調節したあと、今度は製品にする為に縦割りして行きます。 文化薪であれば1束分の製品を原木を機械で割りながら2分前後で生産します。

縦割りしたあとは針金で結束して製品へと加工しおよそ1日で200束生産します。

結束し終わった製品をカゴに入れ、出荷を待つ

加工途中出た端物ですが米袋やナイロン袋に詰め残さず出荷します。

オガクズ等も焚き付け用として製品化され出荷しています。

出荷に向け積込中翌日には都内へ向け出荷されました。

薪の種類

近年、薪を目にする機会が増え、ホームセンターや道の駅などでも手軽に購入できるようになりました。 しかし、薪の選び方を間違えると、火付きが悪かったり燃焼効率が低下したりと、思わぬトラブルにつながることもあります。

《外国産薪と国内産薪の違い》

ホームセンターで販売されている薪は、多くが外国産で、比較的安価な点が特徴です。

一方、道の駅などで販売される薪は国内産ですが、樹種が混在していることが多く、これもまた手頃な価格で提供されています。

ただし、これらの薪には以下のようなデメリットが見られることもあります

  • 火付きが悪い
  • 燃焼時の持続力に欠ける
  • 香りや煙の特徴が用途に合わない場合がある

一方で、飲食店向けに出荷される薪は、国内産が多く使用されています。 特にピッツァ窯を使用する飲食店では、火力や香りが重要視されるため、樹種が厳選された高品質な薪が重宝されています。

用途別に適した樹種の選び方

薪の用途に応じて、適した樹種を選ぶことが大切です。 以下に代表的な樹種とその特徴をまとめました。

樹種木質の特徴薪としての用途薪以外の主な用途
楢(なら)硬く密度が固い木質で耐久性があり、加工しやすい。燃焼時には火力が強く、長時間の燃焼が可能。暖房用
調理用
燻製用
建築材
家具材
フローリング材
椎茸原木
炭材
樫(かし)非常に硬く耐久性が高い木質で、屋外での使用にも適する。燃焼時には高火力で持続時間が長い。暖房用
調理用
燻製用
建築材
土木材
船舶部品
木刀の材料
炭材
椚(くぬぎ)硬い木質で火力が安定しており、植樹などにも用いられる。暖房用
調理用
燻製用
建築材
家具材
椎茸原木
炭材
桜(さくら)中程度の硬さの木で加工性が高い。見た目が美しく香り豊か。燃焼時には燻製や加熱調理に向いている。暖房用
調理用
燻製用
家具材
楽器材
装飾材
椈(ぶな)硬く緻密な木質で加工が容易。燃焼時には火力が安定し、長時間の燃焼が可能。家具やフローリングに使用されることが多い。暖房用
長時間燃焼用
家具材
合板材
燻製チップ
松(まつ)柔らかく軽い木質で加工が容易。燃えやすい為焚火向きで陶器の焼成にも利用され、薪以外には建築や紙に原料など広く利用される焚火用
キャンプ用
陶器用
速燃用
建築材
合板材
製紙用パルプ
杉(すぎ)軽く柔らかい木質で加工性が高い。耐久性が高い為、建築材として多用されるが、薪としては煙が多く野外向き。焚火用
キャンプ用
速燃用
建築材
家具材
割箸材
桧(ひのき)軽めの木質で香りが良い。防虫性や耐久性が高く、建築や木工製品に適している。燃焼時の香りも心地よい。焚火用
キャンプ用
速燃用
建築材(寺社仏閣)
家具材
風呂材

適材適所で楽しむ薪の魅力

薪の選び方ひとつで、その用途に応じた楽しみ方が広がります。
例えば、ピッツァ窯にはナラやクヌギを、焚火やキャンプには火付きの良いスギやヒノキを選ぶことで、作業効率や仕上がりが格段に向上します。
薪はただの燃料ではなく、樹種や品質によって香りや燃え方が異なる「自然の贈り物」です。
ぜひ用途に合った薪を選び、その魅力を存分に楽しんでください。

薪の可能性

持続可能な夢の燃料「薪」の魅力

これまでご案内してきた薪ですが、持続可能な燃料の中でも薪や木炭は非常に優れた選択肢といえます。
なぜなら、薪は環境負荷が少なく、自然の循環の中で活用できる「夢のような燃料」だからです。

薪が持続可能な理由

薪は広葉樹が主に使用され、伐採されるまでの20~30年間、光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収します。
そして、燃焼時に排出されるCO2は、新たな原木が再び成長する過程で吸収されるため、地球上のCO2量を増やすことがありません。この「カーボンニュートラル」の仕組みこそ、薪が環境に優しい理由です。

薪利用の手軽さと現代の環境

昔のように薪を使った煮炊きや暖房は、少しハードルが高いと感じられるかもしれません。
しかし、最近ではホームセンターなどで燃焼用の道具が手軽に手に入るため、誰でも比較的容易に薪を利用できる環境が整っています。
また、少し初期投資が必要ですが、暖炉や薪ストーブは薪を使う楽しさを存分に味わえるおすすめのアイテムです。

薪の魅力と生活を豊かにする一工夫

薪を使った暮らしには、便利さを超えた特別な魅力があります。
例えば、生産者の方からお聞きした話では、「薪で炊いたお風呂はお湯が柔らかく、まるで温泉に入ったような気分が味わえる」とのこと。まさに贅沢なひとときです。
また、薪の炎のゆらめきや、木の香りに包まれる時間は、現代の暮らしに癒しとぬくもりを提供してくれます。

最後に・・・

薪はただの燃料ではありません。その持続可能性とともに、自然の恵みを最大限に活かし、生活をより豊かにする可能性を秘めています。
ぜひ、環境にも優しく、魅力たっぷりの薪を取り入れてみてはいかがでしょうか?
煮炊きや暖房はもちろん、薪ストーブや暖炉などの利用で、心も体も温まる暮らしを楽しんでみてください。